日々も続けば恋となる。
「桜、咲いたね」


2人で桜並木の道を歩きながら、
彼女がそう言った。


「私、桜大好きなんだぁ。花言葉も素敵でね」


鈴の音がなるように、
小さく上品な彼女の笑い方が、
俺は好きだった。


「ちょっと、志優くん聞いてる?」


不満そうな顔して
俺の顔を覗き込んできたのは、

彼女の──井純 結花(イズミ ユカ)。
御坂 志優(ミサカ シユウ)というのが、俺の名前。


「聞いてる。去年も聞いた」
「でも、相槌の1つくらいうってほしいなぁ」
「……」
「ふふっ、うそうそ。
そのままでいいよ、志優くんは」


結花はいつも笑って許してくれる。
そのままでいいと、言ってくれる。

だから結花の隣は、居心地がいい。

俺は、俺の少し前を歩き出した
結花の背中を見つめた。



「結花」



なんとなく、名前を呼んでみると、
結花はふわっと振り返り、
満開の笑顔を向けてくれた。

その辺の桜より、よっぽど綺麗に咲いていた。


──そんな、ありふれた日常の、
つまらない記憶。






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