日々も続けば恋となる。
翌朝、
私は志優くんを連れて桜を見に来た。

志優くんは
桜にあまり興味が無いようで、
たびたび欠伸をしたり、
スマホをいじったりしている。

でも、しっかり手を繋いでいてくれる。



「桜、咲いたね」


志優くんに話しかけたが、
無視をされてしまった。



「私、桜大好きなんだぁ。花言葉も素敵でね」


チラッと横目で志優くんを見ると、
また欠伸をしていた。

少しくらい聞きなさいよ……。



「ちょっと、志優くん聞いてる?」



顔を覗き込むと、
志優くんはほんの少しだけ微笑んだ。



「聞いてる。去年も聞いた」



……覚えてんのかい。

1年も前のことだし、
ちっぽけな話なのに、
なんで覚えてんの。

私は1年前、
この桜の木の下で告白した。

その時、話した。桜が好きなのだと。



「そのままでいいよ、志優くんは」



志優くんは、そのままでいい。

無理に変わろうとしなくていい。

ありのままの貴方を愛してくれる
素敵な人が、きっとこの先現れるから。


志優くんと繋いでいた手を離し、
私は少し先を歩く。



「結花」



ふいに、彼に名前を呼ばれた。

なんでかね、
泣きそうになっちゃったんだ。

あまりにも優しい声だったから。


私は笑顔で振り返った。
こんな笑顔になれたの、久しぶりだ。

志優くんと付き合ってからは、
辛いことの方が多かったから。



「志優くん」



泣くな。泣くな。笑え。

喉の奥が締め付けられたように、
声が出ない。



「別れよう」



小さな声だったけど、
志優くんにはちゃんと届いた。

私はさ、甘やかしすぎたんだ。
志優くんのこと。

なんでも笑って許しちゃうし、
なんでもやってあげたくなっちゃうの。

でもそれは、
志優くんのためにはなってなくて、
返って志優くんをダメにした。


そして私も、志優くんといることで
どんどん自分が
弱い人間になっていっている気がした。

お互いのためにも、
離れなければいけないと思った。



「……わかった」
「今までありがとう。大好きだったよ」
「うん。ありがとう」
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop