妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「ありがとう、彰史さん。彰史さんに祝ってもらえるのすごく嬉しい。ありがとう」
「それはよかったな」
「うん。嬉しい」
「ははっ。そこまで喜ばれれば、こちらも祝った甲斐がある」
「本当にどれも嬉しかったです。まさかお父さんたちにまで声かけてるとは思ってませんでしたけど」
「あー……実はな、君の両親から、円香の誕生日を盛大に祝ってやってほしいと頼まれていたんだ」
「え?」

 新たな事実に円香は驚き、少し体を離すと彰史の顔を窺うように覗き込む。

「つらいことがあった分、楽しい思いもさせてやりたいと、そう言われたんだ」

 今日の誕生日があまりにも贅沢だったことに合点がいくと共に、自分の想像の何倍も皆が円香のことを気にかけてくれていたことに気づき、円香はじんわりと胸を温かくする。

「まあ、言われずとも誕生日はちゃんと祝うつもりでいたが、ご両親がそこまで言うのなら、一緒に祝ってもらったほうがいいだろうと思ったんだ。そのほうが円香は嬉しいだろうし、ご両親も安心すると思ってな」
「彰史さん……彰史さんはすごく家族思いですね」

 円香のその言葉に、彰史は温和で、けれど、切なさも含んだような複雑な表情を一瞬浮かべたが、それは本当に一瞬のことで、円香が彰史のその表情に気づくことはなかった。

「円香が大切に思っていて、円香のことを大切にしてくれる人たちは、俺も大切にしたいと思う。今は円香が俺の家族だからな」
「彰史さん……私にとっても彰史さんは大切な家族です」
「ああ」

 本当に大切なのだという気持ちを込めて、彰史にきゅっと抱きつく。彰史も心なしか少し強めに円香を抱きしめてくれているように感じる。

 二人はそのまましばらく黙って、互いのぬくもりを分け合った。



 円香はこの日、眠りにつくまでの間、存分に彰史に甘えて過ごし、幸せな気持ちのままその一日を終えた。

 翌朝、彰史からは「酔って少し大胆になっているのがかわいかった」と言われて、円香はとても恥ずかしかったけれど、昨日の出来事はすべて覚えていて、それが事実だとわかっているから、円香は「ごめんなさい」とただ照れ隠しの謝罪をするしかなかった。
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