妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 襖の先に立っていた彰史は静かに客間に踏み入ると、再び襖をきっちりと閉め、二人きりの空間を作る。

 逃げ場のない円香は胸元でぎゅっと手を握り、体を縮こまらせる。

 彰史はゆっくりと円香のほうへ近づいてくる。

「円香。そんな顔をしなくていい」

 どんな顔をしているかなんて自分にはわからない。だが、ひどく強張っていることは確かだろう。

 彰史がここに来てくれたことを嬉しく思う反面、この状況を怖いと思う自分がいる。これから彰史の紡ぐ言葉が、円香を地獄へ突き落すのかもしれないと思うと、どうしても表情は固くなる。

 一方で、彰史は優しくて、けれど、切なさもはらんだ表情を浮かべている。

「円香、大丈夫だ。あの女とは何もない。裏切らないと約束しただろ?」

 彰史の視線はとても真っ直ぐで円香の目から逸らされない。それは、円香が彰史から誠実さを感じたあの日と何も変わっていない。

 そんな視線を向けられれば、淡い期待が生まれる。自分が見たものは何かの間違いで、本当は彼は裏切っていないのではないかと。

 けれど、それでもまだ信じきることができない円香はその瞳を不安で揺らす。

「信じろ。全部話すから。円香の納得いくまで話す」
「……全部?」

 含みを持たせた彰史の言葉に、円香は不安を強める。

 彰史はそんな円香を安心させるかのように優しい笑みを浮かべて「ああ」と頷くと、円香にしっかりと向き合ったまま語りはじめた。
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