妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「あの女には、マンションの一階に下りたところで出くわしたんだ。会おうと思っていたわけではない。向こうが勝手に押し掛けてきたんだ。どうやら俺らの家を訪ねてくるつもりだったらしい」
「っ、どうして……」
「目的は俺だな……円香には、心配をかけまいと思って言っていなかったが、最近付きまとわれていたんだ。会社のビルで何度か待ち伏せされていた」
「あっ……」

 あの日のことが蘇る。カフェで目撃した二人の姿。あのときもそうだったのだろう。そして、彰史の口ぶりからして、それはその一回だけではないようだ。

「……私、見たんです……彰史さんを訪ねる麗香を、いつものカフェで……」
「……っ! そういうことか。具合が悪いと言って帰った日か?」

 これでもう円香の嘘はばれてしまう。正直に答えれば、彰史は円香が帰った理由を察するだろう。それでもこれ以上の偽りは話をややこしくするだけだとわかるから、円香は小さく「はい」と答える。

「円香の姿がなかったから、到着する前なんだと思っていたが、そうではなかったんだな」
「……ごめんなさい。具合が悪いなんて、嘘で……」
「いい。嘘でもないだろ? 心がつらかったんだろ?」

 彰史のその優しい言い方に、この人を信じたいという気持ちが強くなる。このままちゃんと向き合えば、全部解決するのではないかとそう思えてくる。

 円香が声には出さずに素直に小さく頷けば、彰史は後悔を滲ませたような声を発する。
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