妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「怖かった……また捨てられるのかと思ったら怖かった」
「うん、怖かったな。怖い思いをさせてすまなかった」

 円香は大きく首を横に振る。

「彰史さんは悪くありません。私が勝手に勘違いをして逃げてしまったから……ごめんなさい」
「いや、俺の配慮が足りなかった。円香のトラウマを知っていたのに、それを呼び起こすような状況を作ってしまった。本当にすまない」

 円香はもう一度小さく首を横に振ってから、彰史にきゅっと抱きつく。

「迎えに来てくれたから大丈夫です」
「当たり前だ。円香を放って消えたりはしない。俺は筋の通らないことは嫌いなんだ」

 彰史らしい台詞に小さく笑いがこぼれる。

 ここで『好きだから』なんて言ってもらえたら、最高にロマンチックだが、彰史らしい偽りのない真っ直ぐな言葉だからこそ、円香は再び彼を信じられる。

「ありがとう、彰史さん」

 円香が彰史に回した腕により一層力を込めれば、彰史は優しく「ああ」と呟いて、円香と同じようにその腕の力を強めてくれる。

 彰史との温かな抱擁は、円香の凍てついた心をじわじわと溶かしていく。まるで春の陽気にでも包まれているかのようだ。とても心地いい。

「……もう少し、このままでもいいですか?」
「もちろん」

 二人はひたすら抱きしめ合う。何も語らず、ただ抱きしめ合う。それが今の二人に必要なことだから。
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