妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「いい加減にしなさいっ!」
「っ!? えっ? え?」

 円香が麗香を叱ったことなどないから、麗香は随分と戸惑っている。信じられないものを見るような目でこちらを見ている。

「どうして人の気持ちを考えられないの。麗香ちゃんはいつも自分のことばかり。麗香ちゃんの行動でどれだけの人が傷ついたと思ってるの?」
「……傷つく?」
「彰史さんのことも朔也くんのことも傷つけてるでしょう。子供だって、麗香ちゃんがそんなだといつか絶対傷つく。それに私も……私だってすごく傷ついた。朔也くんを奪われて、彰史さんのことまで奪われそうになって、麗香ちゃんが憎くてたまらなくなるくらい傷ついた!」
「……なんで? だってお姉ちゃんはいつも譲ってくれるじゃん。『いいよ』っていつも言ってくれるでしょ?」

 麗香は心底不思議そうな表情をしていて、円香の傷など少しもわかっていないのだと知らされる。

 確かに円香は多くのものを譲ってきたが、それは麗香のためにと思ってそうしたものばかりだ。麗香を思いやってのことだ。だが、それは麗香には伝わっていないのだろう。

 だって、麗香は円香のことを思いやってくれない。円香にだって感情があるとわかっていない。自分のことしか頭にないようだ。

「私にだって、譲れないものはあるの。とても大切なものを奪われて、平気なはずないでしょ? 大好きだった朔也くんを奪われてどれだけ悲しかったか……生きる気力がなくなるくらいつらかった。もう二人の顔を二度と見たくないって思うくらい苦しかった」
「お姉ちゃんが……?」
「麗香ちゃんが大切にしているものを、横から誰かに奪われたら、麗香ちゃんだって嫌でしょ? それは誰だって同じなの。私だって同じ」
「……私が、お姉ちゃんを、傷つけた?」

 なぜだか麗香のほうが傷ついた顔をしている。その表情を見ているとこれ以上責め立てるのが心苦しくなるが、自分のためにも、麗香のためにも、今はっきりさせなければならない。
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