妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「円香、俺と旅行に行かないか?」
「……へ?」

 すっかりキスに意識をとらわれていたから、まったく関係のないことを言われて、円香は随分と間の抜けた声を漏らす。

 円香のその様がおかしかったのだろう。彰史は喉を鳴らすようにして笑っている。

「まだ足りなかったか?」

 そんな台詞と同時に親指で唇を撫でられる。彰史のその行動が、彼の言う足りないものを示していて、はっきりと口にされるよりも恥ずかしい。

 続きを待っていたことは事実だが、その台詞に同意できるほど大胆にはなれない。円香は慌てて否定の言葉を口にする。

「い、いえっ! 大丈夫です」
「そうか? まあ、続けるのはやぶさかじゃないが、先に旅行の話をしようか」
「あ、はい。します。しましょう! 旅行の話。え? 旅行?」

 自分で復唱して、円香はようやく思考が追いつく。けれど、旅行の話題が出るなんて、少しも思っていなかったから、まだ完全には飲み込めない。円香はぱちぱちと目を瞬かせながら彰史に問う視線を送る。

「そうだよ。旅行だ」
「旅行……二人で?」
「ああ。俺と円香の二人で」

 彰史が旅行に誘ってくれたという事実を、円香はようやく正しく認識し、それと同時に円香の心は踊りはじめる。

 円香と彰史はまだ一度も旅行をしていない。新婚旅行は式を挙げた後にと計画してはいるが、結婚式自体がまだ半年以上も先だから、旅行はまだまだずっと遠い先のことだと思っていた。

 おそらく彰史の言い方からして、それよりも前に旅行しようと言ってくれているのだろう。嬉しいサプライズに円香の表情は緩みはじめる。
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