妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 翌日はホテルでの朝食を済ませると早々に宮崎を出発し、再びレンタカーで大分へと移動する。大分の視察先は温泉街の近くにあるということで、今日は大きな移動は最初のみで、残りはその街で一日を過ごす。宿泊先もその街にある温泉旅館だ。

 今日の視察先は複数の古民家らしい。彰史はそれを一軒一軒回りつつ、やはり今回も周辺散策に時間を割く。

 街全体に風情があり、どこを切り取っても絵になるから、円香は観光気分で彰史に付いてまわっている。

「風情があっていいところですね」
「ああ、本当に。こういう街の様子も、住居を決める材料になるだろうな。不動産そのものだけを見てもそれはわからないから、やはりこうして周辺まで実際に確認しないといけないな」

 彰史のその言葉で、彰史がやたらと周辺を確認していた理由を円香はようやく理解する。

「あ、だから、建物だけじゃなくて、周りをいろいろと見てまわってるんですね」
「その通りだ。だが、それだけが理由ではない。次の事業のモデルケースにできるかどうかの視察も兼ねている」

 円香は彰史の仕事内容についてはあまり把握していないから、何の話だと首を傾げる。

「次の事業?」
「ああ。円香、これを見てみろ」

 彰史が差し出してきたタブレットPCの画面を見やると、そこには見覚えのある3D空間が広がっており、その空間をアバターが歩いている。

「わあ、すごい! これ、私たちが住んでるところですよね?」
「そうだ。これはあの付近をモデルにした仮想空間だ。所謂メタバースと言われているものだな」
「これが次の事業ですか?」
「そうだ。メタバースの事業はすでに成功させているが、次は完全独自の仮想空間ではなくて、現実とリンクさせた仮想空間の提供を考えている。例えばだが、不動産の下見をするのに、事前にこうして仮想空間で内見し、周囲の様子まで知ることができたら便利だと思わないか?」

 円香は言われたことを頭の中で反芻し、すぐに彰史の言葉に納得を示す。

「確かに。これなら遠い土地の物件を事前に確認することもできますし、忙しい時間の合間に少し見学なんてこともできそうですね。写真とは違って、3Dだから実物をイメージしやすいですし」
「うん、君の言う通りだ。これなら場所にとらわれずに利用できる。まあ、いろいろと課題も多いから、実現にはまだもう少し時間がかかるがな」
「そうなんですね。でも、実現したら本当に便利ですね。なんだかワクワクしてきました」
「ははっ。円香の期待に応えるためにも頑張らないといけないな」

 円香の期待なんて、彰史にとっては取るに足らないものだろう。それでも、わざわざそれを口にしてくれたことや、仕事の話を面倒くさがらずに教えてくれたことが円香はとても嬉しかった。
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