妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 視察を終えると、二人はそのまま同じ街を観光し、この日は早めに旅館へと移動する。せっかく温泉旅館に泊まるのだから、温泉を楽しむ時間をちゃんと取ろうという考えでのことだ。

 夕方には旅館に到着し、円香と彰史は先に大浴場で温泉を楽しんでから、夕食へと移る。

 夕食は地元の食材を使った懐石料理で、繊細な見た目も、上品な味わいも本当に素晴らしく、まさに絶品揃いであった。

 そんな大満足の夕食を終えれば、あとの予定は特になく、二人は部屋でまったりと過ごす。

 趣のある旅館で、彰史と過ごすその空気はとても心地いい。円香はそれをより味わいたくて、彰史の肩にそっともたれかかる。

「どうした? 円香が甘えてくるなんて珍しい」
「なんとなく、彰史さんに触れていたくて」
「ふっ、そうか。それなら、一緒に部屋の露天風呂にでも入るか?」
「えっ!?」

 彰史からのとんでもない提案に、円香は寄りかかっていた体を起こして、仰天の表情を浮かべる。

「なんだその顔は。嫌か?」
「いえ……でも、恥ずかしいです」

 すでに肌を見せ合った仲とはいえ、一緒に風呂に入るのは円香にはハードルが高い。

「今さら恥ずかしがることもないだろ。別に変なことはしない」
「うー、でも……」
「俺は君とゆっくり湯に浸かりたいだけだ。円香は好きなだけ甘えればいい」

 恥ずかしさにさえ目をつぶれば、それは魅力的な提案と思える。気持ちのいい湯に浸かりながら、彰史に甘えられたら、きっと極上の気分になれるだろう。だが、恥ずかしさは拭えそうにない。

 円香はどうすべきかかなり迷ったものの、円香を誘う彰史の表情がとても優しかったから、結局は彰史に寄り添うほうへ気持ちが傾いた。

「……じゃあ、一緒に入ります」

 円香の同意に、彰史は「ありがとう」と返してくれる。そう素直に返されると、やはりこの選択をしてよかったと思い、円香はその顔に小さく笑みを浮かべた。
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