妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「……淋しいか? 俺に兄弟はいないからな。その辺りのことは想像してやることしかできない」
「まったくと言えば嘘になりますけど……今は彰史さんがいてくれるから大丈夫ですよ」
「そうか」

 彰史は円香の淋しさを埋めるかのようにさらに強く抱き寄せてくれる。彰史のその思いやりが嬉しくて、円香も彼に寄り添いたくなる。

「……彰史さんは、淋しくないですか?」

 それは以前の関係では決して訊けない問いだ。何しろ彰史からは、結婚をする際、自分に家族はいないと言われているのだ。

 彰史とは契約のような結婚だったから、詳細を訊くことは憚られて、円香はそのことにこれまで一切触れていない。

 今の問いも直接的なものではないが、話の流れからして、家族のことを含んでいるのは伝わっているだろう。

 もしも彰史が不快感を示すようなら、すぐに取り消そう。円香はそう思いながら、彰史の様子を窺うが、彰史は少しも躊躇うことなく、その問いに答えてくれる。

「淋しいという感情は何年も前に捨て去っているんだ。母の一周忌と共にな」
「っ」

 いきなり核心に触れる言葉が返ってきて、円香は動揺する。

「面白くもない話だが聞くか?」
「……彰史さんが嫌でなければ」

 無理をしてまで話してほしいとは思わないが、彰史に寄り添いたいという思いから、円香はそう答えていた。

「わかった。湯あたりするといけないから、上がってから話そう」
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