妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「彰史さんの強くて優しいところは、お母さん譲りなんですね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいよ。ずっと母の背中を見てきたからな」

 それはとても大きくて温かな背中だったに違いない。彰史の表情がそれを物語っている。

「弱音を吐かず懸命に生きる母を、俺は少しでも助けたくて、学校に行く傍ら、アルバイトをして稼いだ。本当は中学卒業と同時に働きに出たかったが、母が大学まで行かせると言って聞かなかったから、俺は奨学金を利用して学校に通い、空いた時間を勉学とアルバイトにあてたんだ」

 彰史はさらっと述べているが、きっととてつもない苦労をしたに違いない。最初に親戚はいないと言っていたから、頼る人もいなかったはずだ。本当に親子二人だけで頑張ってきたのだろう。

「……大変な努力をされてきたんですね」
「母の努力に比べれば俺のは大したことない。大学まで行かせてもらったんだからな。就職までの時間が本当にもどかしかったが、大学生になれば、将来の道も明確になってきて、俺はあともう少しで母を楽にしてやれると思った。幸い就活は順調に進んだし、その裏で起業のための準備も着々と進めた。本当にあと少しだった」

 最後の言葉が嫌な未来を暗示していて、円香はごくりと唾を飲み込む。
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