入れ替え婚 ~妹に婚約者を奪われたら冷酷と噂の妹婚約者に溺愛されました~
「円香と結婚したのも、さらに前へ進むためだった。次なる成功を収めるために、月花の家に入りたかったんだ。まあ、それは初めに円香に話した通りだな」
「はい」
「でも、円香と結婚したら、嬉しい誤算があった。君が俺に新しい価値観を示してくれたんだ」

 突然、話が自分のほうへと方向転換し、円香は戸惑いの声を漏らす。

「へ? 私?」
「そうだ、君だよ。円香の生き方は自然体で、一日一日を大切に生きていて、時間の流れが俺とは違っていた。前に進むだけがすべてではないと教えられたんだ。今を噛みしめることも大事なんだと」
「え? いや、私はそんな大層なことは……?」

 円香はあくまでも普通に暮らしているだけだ。ただ平凡な日常が好きなだけである。むしろ新しい生き方を示してくれたのは彰史のほうで、円香が彰史に何かを教えた覚えなどまったくない。

 だが、彰史はなおもその主張を続ける。

「円香が意識していないからこそなんだよ。些細なことに喜びを見出す君が、生き急いでいた俺に、人生を楽しむ方法を教えてくれたんだ」
「ええ?」
「円香といると本当に満ち足りた気持ちになる。一日一日が愛おしく思える。毎日がとても充実しているんだ。もしかしたら捨て去ったと思っていた『淋しさ』を、君が埋めてくれているのかもしれないな」

 堪えていた涙が再び溢れそうになる。自分なんてちっぽけな存在にすぎないと円香は思うが、それでも自分の存在が少しでも彰史の救いになれているのなら、これ以上嬉しいことはない。彰史の母親のようにはいかないだろうが、円香の持てるすべてで愛する彰史を支えたいと心から思う。
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