入れ替え婚 ~妹に婚約者を奪われたら冷酷と噂の妹婚約者に溺愛されました~
「彰史さんっ」
「なぜ泣きそうな顔をする。ん?」
「だって……」
「俺は満ち足りていると言っただろ? 円香という信頼できる家族を手に入れたんだから」
「……うんっ」
「円香。ほら」

 彰史は両手を広げて、円香をその胸へ誘いこんでくる。

 今は円香が彰史を慰めたい側なのに、これでは立場が逆転してしまっていると思うが、円香は素直にその胸元へと飛び込んだ。そして、ありったけの力で彰史をぎゅっと抱きしめる。

「私、ずっと、ずっと彰史さんの家族でいます。この先ずっと」
「ああ。ありがとう、円香」

 どうかこの先の彰史の人生が幸福で満たされますようにと円香は強く願う。

 そして、そんな人生を歩む彰史を彼の横で見守り続けたい。どこまでも彰史のそばにいて、彼を愛し、支え、癒し、守っていきたいと強く思う。

 それは円香の強い決意で、そして、嘘偽りのない思いであった。



 だけど、このときの円香はまだ知らなかった。

 愛するが故に別れの道を選ぶこともあるのだということを。
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