妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「奥さん思いのいい夫ね。でも、それだと彰史ばかりが我慢することになるわよ?」
「そんなことはない」
「今まさにしてるでしょ? 円香さんのために諦めてる。そんな関係なら、もう別れてしまえば? 向こうに来てくれたら、また私が支えてあげることもできるし」

 二人の復縁を仄めかす相川の言葉に円香は胸が痛くなる。これまでビジネスとしての話しかしていなかったから、そこまでの想像は膨らませていなかった。でも、彰史が円香と離婚してアメリカに渡れば、その可能性は十分に考えられるだろう。

 円香はごくりと唾を飲み込んで、続くであろう彰史の言葉に耳を傾ける。

「はっ、今さらなんだよ。君とはもう終わっているだろ?」
「あら、二人の進む方向が同じなら、また一緒になってもいいでしょ? 嫌いになって別れたわけではないんだし。それに離婚すれば、彰史と円香さんは、昔の私たちみたいにお互いに好きな道に進めるでしょ?」
「あのときの俺らとは違うだろ。俺は結婚しているんだ。ただの恋人とは違う。円香を裏切ることは絶対にしない」

 本当に彰史はどこまでも優しい。でも、その優しさが今はとてもつらい。嬉しくてたまらないのに、同時にこんなにもつらいだなんて、今まで知らなかった感情だ。

 円香は泣きそうになるのを必死に堪え、息をひそめ続ける。

「裏切りって大袈裟よ。子供がいるわけでもないんだし、そんな契約に縛られる必要ない。別に婿の役割はあなたじゃなくても務まるでしょ?」
「そうだとしても不誠実なことはしたくない」
「まったく、彰史は優しすぎるのよ。彰史の選択は彰史のためにならないと思う。まだ時間はあるから、もう少し考えてから結論を出してちょうだい」
「はあー、わかったよ」

 二人の会話はそこで終わり、すぐに立ち去る音がする。

 しばらくすると相川だけが円香のもとへ戻ってきた。
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