妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 空港内を一言もしゃべらず黙々と歩いていく彰史に、円香も黙って付いていく。一歩進むごとに別れが近づいていると思うと足は鉛のように重くなる。

 暗く重苦しい気持ちが表に現れて、円香は自然と俯き加減になる。足元ばかりを見ながら、それでも歩みは止めずに彰史に付き従っていれば、突然、円香の耳に、円香の心境とは正反対の明るい声が届いた。

「彰史!」

 聞き覚えのある声だ。

 驚いて声のしたほうへと顔を向ければ、その声の主が円香の目に映る。

 表情までもが円香とは真逆のその人は、今、円香が最も会いたくない人物、相川だった。

「待たせたな」

 彰史は相川に驚くでもなく、言葉を返している。彰史のその反応からして、二人が待ち合わせの約束をしていたことは間違いないだろう。

 相川も彰史と同様にトランクケースを持っているから、彼女もきっとこれから出発するに違いない。おそらくは彰史と共に。

 これから彰史と同じ道を歩んでいく相川と、彰史とは袂を分かつことになった円香。なんだかその差を見せつけられているようで苦しい。こんな場面を円香に見せるのはあんまりだ。最後くらい二人で別れのときを過ごしたかった。

 とてもじゃないが二人の姿をまともに見ることなんて円香にはできず、再び足元を見つめる。

 彰史は相川のそばまで歩み寄って、何やら言葉を交わしているが、円香はその会話を耳に入れたくなくて、その場に立ち止まってしまう。

 二人のその会話は実際には一分にも満たなかったのだが、円香にはとてもとても長く感じられた。

 円香はいたたまれなくて、後退りしそうになるが、彰史の「円香」と呼ぶ声が円香をとどめる。

 恐る恐る彰史のほうへと顔を向ければ、真っ直ぐな彰史の視線とぶつかる。彰史はその視線で円香をそばへと呼んでいる。

 円香がそれに逆らえるわけもなくて、ゆっくりと彰史のもとへと歩み寄れば、彰史はとうとう別れの言葉を放ってきた。
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