妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
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 月花(つきはな)家の長女として生まれた円香は、優しい両親の元で穏やかな人生を歩んできた。

 月花家は数多くの不動産を有する資産家であるから、周囲からは大層華美な暮らしをしていると思われがちであるが、実際のところはどこにでもあるような普通の暮らしを送っている。

 それは、円香の父・篤彦(あつひこ)が本家の人間とはいえ次男であり、跡取りではなかったという面も影響しているであろうが、月花家自体が堅実をモットーとし、派手なことを嫌う家柄であるという面が大きいに違いない。

 今は円香の祖父である孝之助(こうのすけ)が月花家の資産を管理しているが、孝之助も代々受け継いできた資産を守りつつ、慎ましやかな暮らしをしている。


 円香も派手なことや目立つことは苦手で、ありふれた日常を好んできた。家族で食卓を囲む時間だったり、部活動に励む時間だったり、あるいは友人とくだらないおしゃべりをする時間だったり。そういう多くの人が経験するであろう普遍的な日常を円香は満足に思いながら生きてきた。

 父は一般企業に勤めているし、母はごく普通の家柄の出。自宅こそ月花家所有の不動産を譲り受けたものとはいえ、豪邸ではなく普通の一軒家だ。特別なことは何もない。


 だから、もしも円香に一般家庭と違うところがあるとすれば、それはきっと許婚がいたことだけであろう。
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