妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました～入れ替え婚!?～

　半分ほどを片づけ終わった頃、コンコンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。それに続いて「円香」という彰史の声も聞こえてくる。

　円香が「はい？」と返しながらドアを開ければ、予想通りそこには彰史の姿があった。

「片づけは順調か？」
「はい。半分はもう終わりました」
「そうか。俺も何か手伝うか？」

　彰史からの意外な言葉に円香はパチパチと目を瞬いて彰史を見つめる。まさかこの男からそんな優しい台詞が飛び出すとは思っていなかった。

　驚きに円香が何の反応もできないでいれば、「円香？」と呼びかけられてしまう。その声で我に返った円香は慌てて答えた。

「あ、いえ、大丈夫です」
「ん。じゃあ、終わったら声をかけてくれ。家の中を案内するから」
「はい、ありがとうございます」


　再び作業に戻った円香は、そう時間もかからずにすべての荷物を片づけ終えた。持ってきた荷物はたいした量ではない。一人で作業してもさして時間はかからなかった。

　その後は約束通りに彰史に家の中を案内してもらう。引っ越し前にも一度軽く案内はしてもらっているのだが、そのときは円香の部屋になるところを中心に見ていたから、あまり細部までは見ていない。

　今日は細かい物の配置なんかも含めた、円香がここで暮らしていくのに必要なことをあれこれと教えてもらった。

「とりあえず案内が必要なものはこのくらいか。あとで何かわからないことがあれば、その都度聞いてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「それから家事は明日から頼む」
「いえ、ちゃんと今日からします」
「今日は引っ越したばかりで疲れているだろ？」

　円香を気遣うようなその発言に円香はまた驚く。本当に今日はどうしたというのだろう。なぜか優しさを見せる彰史に円香は戸惑いつつも、優しくされればやはり嬉しいもので自然と笑みがこぼれた。

「彰史さん、お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。それが私の役割という約束ですから、やらせてください」
「わかった。それなら今日から約束通りに頼むよ」

　円香はしっかりと頷いた。今の会話の通り、円香と彰史は事前に約束をしている。

　それは、円香が結婚の承諾をした直後のこんなやり取りによるものであった。