妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
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「初めに言っておくが、結婚したからといって、俺に無条件の愛を求めるのはやめてほしい。俺たちは互いのことをまだよく知らないからな。俺が君を愛せるかどうかはわからない。もちろん君も同じだとわかっている」

 結婚相手に向けるものにしては随分と冷たい言葉であるが、二人は恋愛関係ではないのだから、円香は特別おかしな言葉とは感じなかった。実にこの男らしい言葉だと思う。

 円香自身この男に愛を求めているわけではない。この男となら何かが開けるような気がしたから、結婚に承諾しただけだ。だから、彰史の言っていることを不満に思うことはなく、円香は静かに頷いた。

 彰史はそれを確認して、さらに続ける。

「裏切りはしないと約束しよう。契約違反は決してしない。不貞行為は絶対に行わないし、配偶者として結婚生活を維持するための努力もする。俺は道理の通らないことが心底嫌いだからな。その代わり、君にも同じものを求めるが、それでも構わないか?」
「構いません」

 円香は即答した。彰史の言ったことは至極真っ当なことであるが、裏切りを受けた円香たちにとって、この約束事は大きな意味を持つ。結婚に欠かせない絶対条件なのだ。

 明確に宣言をしてくれたことに円香は感謝の気持ちで胸を膨らませる。一方で、彰史は少しだけ驚いた表情を見せると、微かに口の端を上げて笑った。

「ふっ。君は誰かとは違って常識人らしいな」

 せっかく感謝の思いで胸を温めていたというのに、苦い過去を仄めかす彰史の発言に円香は暗い気持ちを呼び起こされる。

 この男は人の神経を逆撫でする趣味でもあるのだろうか。いや、そもそも人の感情に興味がないのだろう。円香が顔を顰めてしまっても、彰史は構わずに話を続けている。
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