妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「結婚後の生活についてだが、俺は君にも配偶者としての役割を求める」
「役割?」
「家事全般を担うか、それが嫌なら働いて生活費を出せ。君が働く場合は、家事代行を依頼するつもりだ。だから、どちらを選んでも構わない」

 彰史の示す役割があまりにも普通のことであるのに円香は拍子抜けしつつ、「わかりました」と答える。結婚して一つの家庭を築くのだから、その家庭を守るために働くのは当然のことだろう。

 社会人経験のない円香に、外で働くことだけを求められるとさすがに困っただろうが、専業主婦の選択肢も与えてくれるのならば何の問題もない。

 だから、円香はすぐに了承したわけだが、彰史はその返事になぜだか声を上げて笑いはじめた。

「ははっ。本当に姉妹でまるきり違うんだな。君の妹は今の条件に憤慨していたぞ」

 最低限のことすら放棄しようとしていた麗香にため息が漏れる。

 この男のことだから、麗香が憤慨するような言い方をした可能性は十分にあるが、そうでなかったとしても麗香が彰史の求める役割を拒絶したことは想像に難くない。

「……すみません」
「だから、それはやめろ。自分に非のないことで謝るな。付け込まれるのが落ちだぞ」

 想像していない返しがきて、円香は驚く。円香としては、身内の不祥事について謝罪をするのは自然なことなのだが、彰史には違う基準があるようだ。

 この間も似たようなことを言っていたし、何か強いこだわりでもあるのかもしれない。

「……気をつけます」
「あの女のしでかしたことに対して、君が負う責任なんてない。むしろ責める権利を持っている側だ。俺に対しても謝る必要はない」

 円香の心の中にあったモヤモヤが晴れていく。

 円香はあの事件に対して、自身の中に強い怒りや悲しみの感情を持つと同時に、なぜだか負い目も感じてしまっていたのだ。自分の至らなさが招いてしまったのではないかと。

 けれど、彰史の今の言葉で思考が変わる。円香が負い目を感じる必要はないと。自分の怒りは正当な感情なのだと認められたような気がした。

 自身の確かな気持ちの変化に、円香がこくりと一つ静かに頷けば、彰史も軽く頷き返してくれた。
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