妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 円香が用意した献立は至って平凡なものばかり。ブリの照り焼きに、ほうれん草の白和えとかぼちゃの煮つけ。そして、白米と味噌汁。

 できるだけ普通の料理のほうが彰史の好みを把握しやすいだろうと思い、この献立にしていた。和食なのは、円香が普段作り慣れているからだ。

 どれも何度も作ったことのある料理ではあるし、自分で食べても美味しいとは感じているから、不合格なんてことにはならないだろう。

 それでも彰史に振る舞うのは、やはり緊張を伴うものであった。

 円香は自身の料理を口にしながらも、彰史の反応が気になってしかたない。一口食べるごとに彰史を見てしまう。

 彰史はすべての料理を順番に一口ずつ口に運んでいるが、どれを食べても表情が変わらない。

 渋い顔はしていないから、まずいとまでは思われていなさそうだが、好みの味でもなかったのかもしれない。

 これは失敗だったかと円香が肩を落としかけたそのとき、彰史の表情がふっと和らいだ。

「どれも美味いな。料理は得意なのか?」
「えっと……得意というほどでは。母と一緒に台所には立っていましたけど」
「実務経験ありというわけか。どうりで美味いわけだ」

 まさか褒められるとは夢にも思っていなかったから、円香は呆然と彰史を見つめてしまう。

 彰史は柔らかい表情のまま、次々に料理を口に運んでいく。本当に美味しいと思っているかのように。

 その様子を見ていたら、じわじわと褒められた実感が湧いてきて、とてもとても嬉しい気持ちでいっぱいになった。この人に認めてもらえたことが本当に嬉しい。だって、絶対にお世辞なんて言わない人だ。きっと本心から言ってくれている。

 円香はようやく緊張を解いて、自身も食事を楽しんだ。
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