妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 円香は絵を描くことが小さい頃から好きだった。一人の時間はいつも絵を描いていた。中学でも高校でも美術部に入っていたし、大学でも美術サークルに所属していた。卒業後だって、時間を見つけては絵を描くことを楽しんでいた。

 けれど、あの悲しい出来事が起きたあと、円香は絵を描く力を失ってしまった。心が疲弊している状態では描けなかったのだ。

 それが、彰史との生活が始まって、徐々に徐々にその意欲が湧いてきた。

 彰史との暮らしが思っていたよりも、ずっとずっと穏やかで優しいものだったから、円香の心は自然と癒され、最近になってようやく趣味を楽しめる自分を取り戻したのだ。

 今は絵を描くことが日課になっていて、彰史が家を空けている時間に、ひっそりと楽しんでいる。

 おそらく彰史に見つかったところで彰史は特に何も言わないだろうが、なんとなく知られるのが恥ずかしくて、密かな趣味にしている。

 今日の題材は花の定期便で送られてきた花たちだ。元々は実家で契約していたものだが、円香に華やかな暮らしをと望んだ母がこのマンションへ届くよう契約を変更してくれたのだ。もちろん彰史は了承済みである。

 以前は実家に届いていた花をよくデッサンしていたものだが、この家でそれをするのは少し不思議な感覚だ。でも、もうこの家にも大分馴染んでいるから、円香はいつも通りに絵を描いていく。

 花弁が幾重にも重なっているラナンキュラスは描き応え十分で、円香はいつになく集中してデッサンに取り組んだ。
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