妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 この日、円香本人は何も知らされていなかったが、実は篤彦が円香をここへ連れてきた目的は、この朔也と引き合わせることであった。

 康弘の一人息子である朔也は円香の二つ上でこのときは七歳。康弘が柔らかさの中にも力強さを秘めたような人柄であるのに対し、朔也はその柔らかさだけを引き継いだような優しい男の子である。

 朔也は円香と年が近く、性格は温厚。住ノ江家自体も信頼のおける家だということで、円香の遊び相手に選ばれたのだ。わざわざ親が子供の遊び相手を見繕ってくるだなんて、随分と過保護であるが、そこにはのっぴきならない家族の事情があった。


 この頃、円香の二つ下の妹・麗香(れいか)が入退院を繰り返しており、両親は麗香の看病にかかりきり。当然、両親が円香のそばにいられる時間は限られ、円香は孝之助に預けられることがほとんどで、あまり自由に遊べなくなっていたのだ。

 友達と遊ぶ時間や両親と過ごす時間が減り、円香はとても淋しい思いをしていたけれど、病気で苦しんでいる妹がいるのに、姉の自分が我儘を言ってはいけないと思っていたから、不満を漏らすようなことはしなかった。孝之助に甘えることはあっても、両親の前ではいつもいい子でいた。

 両親はそんな円香のことをとても不憫に思っていた。円香が口にはしなくとも、淋しい思いや窮屈な思いをしていることは十分にわかっていた。せめてもう少しだけでも、円香が子供らしく遊べる環境を作ってやりたいと彼らは考えていたのだ。


 そんな背景から今日の顔合わせの場が設けられた。長いこと交流のある住ノ江家であれば円香を預けやすい。そして、住ノ江家側にも、内気な性格の朔也に同じ年頃の子供との交流を持たせたいという意図があった。

 円香と朔也を引き合わせてみて、もしも二人の相性がいいようなら、その後も定期的に会わせてみようと双方の親は考えていたのだ。
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