妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 円香には経験がないから、彰史との行為が一般的に見てどうなのかはわからない。

 でも、彰史はとても丁寧に円香に触れてくれていたと思う。十分に円香のことを気遣ってくれていた。触れる手は優しかったし、何度も円香の様子を窺って、円香のペースに合わせてくれていた。

 きっと表面だけを切り取って見たならば、円香の初体験は十分に優しく温かいものだったと思う。

 でも、円香の心情はそうではなかった。


 肌を重ね合わせる行為というのは、円香が思っているよりも簡単なことではなかったのだ。体は受け入れられても、心が受け入れてくれなかった。

 想い人だった朔也との関係はもう完全に失われているし、今の彰史との関係はとても良好だから、きっと大丈夫だと思っていた。無事に終えられると思っていた。

 でも、そんな理屈だけの考えは間違っていた。心を切り離せる行為ではなかったのだ。


 ずっとずっと朔也と触れ合う日を夢見てきたせいか、今触れ合っている相手が彰史であるにもかかわらず、なぜか朔也との日々が蘇ってしまって、たまらなく苦しくなった。悲しみで溢れかえってしまった。

 円香は、初めて知る破瓜の痛みと素肌を見せる恥ずかしさ、そして、それを与えている相手が思い描いていた人とは違うことに静かに涙をこぼした。
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