妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 その後はしばらくたわいない話をして、皆で笑い合っていたけれど、母が父に放った「そろそろ」という言葉を合図に、その場の空気ががらりと変わった。

 母に促された父は小さく息を吐いてまっすぐに円香を見つめてくる。その視線に、円香はきっとここからが本題なのだと悟る。

 円香も真っ直ぐに父の視線を受け止め、覚悟を決めるようにテーブルの下でキュッと手を握りしめた。

「円香。今日はな、円香に話さないといけないことがあって来たんだ」
「……うん」
「……実は、な……」

 父は言いづらいのか言葉を詰まらせている。たぶん、円香にとってはよくない話なのだろう。円香に聞かせるのを躊躇しているに違いない。それでもこの家まで来たということは、言わないわけにもいかない話ということだ。

 父の躊躇う様子だけで、話の方向性がわかる。正直、話を聞くのがとても怖いが、彰史が隣にいてくれる状態でなら、受け止められるのではないかと円香は思う。

 円香は大丈夫だからというように、父に向かって微笑んだ。

「いいよ。何でも言って? 言わなきゃいけないことなんでしょ?」

 父は一度母と視線を合わせて頷き合うと、もう一度円香へと視線を向け、その口を開いた。
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