妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「そんなことありません! 彰史さんはとても優しい人だと思います。今の話だけじゃなくて、彰史さんは一緒に暮らしてからずっと優しいです」
「それは君がそうだからだろうな」
「え?」
「価値のある何かを受け取ったとき、人は相応の対価を払うべきだろ? 俺はその対価を払っているに過ぎない」

 突然話が変わって円香の頭は疑問符で埋め尽くされる。

「対価?」
「優しくされたら、優しくしたくなる、と言えばわかるか?」
「それは、わかりますが……」
「円香は俺のために尽くしてくれているだろ? 俺が暮らしやすいように気を配ってくれている。円香がそうやって俺に優しくしてくれるから、俺も同じものを返したいと思う。それだけのことだ」

 円香の働きを認めてくれているとわかるその言葉に、円香は胸を温かくする。円香の行いを優しいと言ってくれること自体がもう彰史が優しい人である証拠だ。

「やっぱり彰史さんは優しいです。優しい人じゃなきゃ、そんなこと言えません」
「それは円香が――って、これでは堂々巡りだな。まあ、とにかく、円香のこれまでの働きに対する報酬だとでも思えばいい。だから、遠慮せずに頼ってくれ」

 優しくされたら、優しくしたくなる。円香はまさに今その気持ちである。優しい彰史に尽くしたい気持ちでいっぱいだ。

「彰史さん……ありがとうございます。彰史さんのお気持ちがすごく嬉しいです。でも、家事は空いている時間で何とかなるので大丈夫です。だから、もしも上手くいかないときが来たら、そのときは相談してもいいですか?」
「わかった」
「それから学費も大丈夫です。使い道に困っていたお金があるんです。その……慰謝料を渡されているんですが、あまり思い出したくはないお金なので、このタイミングで一思いに消化してしまおうかと」

 ずっと手元に残っているのは嫌で、でも、普通にも使いづらくて困っていたのだ。この機会に消化できれば、そのほうが円香には都合がいい。

「なるほどな。前向きな使い道でいいんじゃないか?」
「はい。これで嫌な過去は捨て去って、新しい人生を生きようと思っています」

 彰史は再び「頑張れ」と言って、円香の頭を軽く撫でてくれた。彰史からのその応援は本当に本当に心強かった。
< 73 / 201 >

この作品をシェア

pagetop