妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
「はあー。円香、いい加減にしてくれないか」

 ベッドに円香を組み敷く彰史が苛立ちをあらわにしている。

「え?」
「嫌ならそう言えばいいだろ? できると言いながら、円香の態度はいつもそうではない。俺のことを拒絶しているだろ」
「っ! そんなつもりは……」
「そうか? 最初から最後まで目を瞑って、ずっと顔を顰めているのにか?」
「あ……」

 言葉にされて初めて気づく。自分がそういう態度を取ってしまっていたことに。

 彰史を拒絶するつもりなんてまったくなかったが、円香の行動が結果的に彰史を拒絶していたことは紛れもない事実だ。

「俺一人でするなら、それはもうセックスじゃない。これではただの自慰だ」
「……ごめんなさい」
「俺の誘いを断ったからと言って、円香のことを蔑ろにしたりしない。ちゃんと最初に言っただろ? 別にあの男を忘れられないならそれでいい。俺とするのが無理ならそう言ってくれて構わない。でも、受け入れるふりをしながら、態度で拒絶するのはやめてくれ。これでは虚しいばかりだ」

 円香は自分の愚かさに反吐が出そうになった。

 彰史の気持ちに応えたくていつもその行為を受け入れていたけれど、本当の意味では受け入れられていなかった。心をオープンにして傷が開くのが怖いからと、彰史と向き合うことをまったくしていなかった。

 自分が彰史に虚しい思いをさせていたことに後悔が募る。

「ごめんなさいっ」
「今日はもうやめよう。よく考えてくれ」

 久しぶりに突き放されてしまった円香は胸が痛くてたまらなかった。彰史の厳しい物言いがつらかったのもあるが、それよりも彼の傷ついた表情が円香の胸を痛くした。

 今の円香が誰よりも大切にすべき人を自ら傷つけていたことが苦しくてたまらなかった。

 円香は自分のベッドに戻ると、眠りにつくまでの間、何度も心の中で『ごめんなさい』と繰り返していた。
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