妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました~入れ替え婚!?~
 やはり彰史は何度も円香の名前を優しく呼んでくれる。その度に瞳を合わせてみれば、彰史の表情はとても優しくて柔らかくて、円香の心は自然と彰史で満たされた。他のことを考える隙なんて少しもなかった。頭の天辺から足の爪先まで彰史のことだけで埋め尽くされた。

 きっと彰史がたくさん泣かせてくれたあのときに、円香はちゃんとつらい過去と決別できていたのだろう。怖がる必要なんてまったくなかった。必要なのは彰史との今に向き合う覚悟だけだった。そうすればこんなにも彰史を近く強く感じられる。

 円香は深い深い充足感と幸福感に包まれて、気づけば涙を流していた。

 それは初めてのときのように冷たい涙なんかではない。とても温かくて喜びに溢れた涙だ。

 その違いは彰史にも伝わっているのだろう。彰史は初めてのときのように円香に冷たい言葉を浴びせることはない。

「円香。ありがとう」

 彰史はそう言って優しく円香の涙を拭ってくれる。

 彰史としっかり心が通じ合えているのがわかって、円香は嬉しくて彰史に回した腕に思いきり力を込めた。

「彰史さんっ」
「ん、ありがとう、円香」


 この日、二人は初めて同じベッドで眠りについた。

 彰史のぬくもりを感じながら眠るのはとても心地よくて、円香はこれ以上ないほどの安心感を得る。今いるこの場所こそが円香の居場所なのだと確信できた。

 円香はようやくすべての憂いから解放された。今度こそ円香の新しい人生の始まりである。
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