妹に許婚を奪われたら、冷徹CEOに激愛を注がれました～入れ替え婚!?～

「え？　ここって、おじいちゃんの別荘？」
「そうだな。だが、俺が買い取ったから元だな。これからは円香のものだ。君がここをとても気に入っていると聞いて、譲ってもらったんだ」
「……」

　あまりにも現実離れしたプレゼントに思考が停止しかける。何の反応も返せない。まじまじとスマートフォンの画面を見つめる。

「どうした？　嬉しくはないか？」
「いや……えっと……でも、別荘だなんて、それは贅沢が過ぎるかと……それにここはおじいちゃんも気に入ってるから」

　さすがにこのプレゼントは度を越していると遠慮する言葉を紡ぐが、それを遮ったのはまさかの孝之助である。

「いや、いいんだ。持て余していたから、ちょうどよかったんだよ。雅彦(まさひこ)も承知している。円香がもらってくれたほうが助かる」

　雅彦とは父・篤彦の兄で、円香からすれば伯父にあたる。ゆくゆくは雅彦が月花家を受け継ぐことになっているから、雅彦が承知しているということはもうすべて根回し済みということなのだろう。

　本当に自分がもらってしまっていいのだろうかと皆の顔を見渡せば、皆一様に頷いている。

　最後に彰史に視線を移せば、彼は今日一番の優しい表情で微笑んでいた。

「円香はこの別荘で絵を描くのが好きなんだろ？　建物が古いから改築は必要だが、それが終わったら二人で遊びに行こう。円香は好きなだけ絵を描くといい」

　円香の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。今日一日の嬉しい出来事いろいろが積み重なって、涙腺が崩壊してしまったようだ。嬉しい気持ちが涙となって溢れだしてくる。

　プレゼントそのものももちろん嬉しいが、それよりも円香を想ってくれる気持ちのほうが何倍も嬉しい。

「うっ……ふっ……どうしてっ、皆そんなに優しくしてくれるの？　ありがとう、ございますっ。すごくっ、すごく、嬉しい」

　円香がここまで感情を表に出していることに両親は驚きつつも、彼らもその目に涙を浮かべて、嬉しそうに微笑んでいる。孝之助は優しい視線を円香に向けてくれていて、そして、彰史はもう円香の涙には慣れているのか、当たり前のように円香の涙を拭ってくれた。