卒業式と第2ボタン
「青野?どうした?」
一歩近づいて、私より頭ひとつ分背の高い彼を見上げると。
「…っ」
…驚いた。入部早々肉離れではじめての大会を棄権したときも、なかなかタイムが縮まず落ち込んでいたときも、今年インターハイに出場できたときも。
どの場面でも泣いているところなんて見たことなかったのに。
その青野が、静かに涙を流していた。
ポケットに入っていた未使用のハンカチを青野の頬にあてる。
「さみしいです」
「…うん、さみしいね」
「春さんがいないと、部活頑張れません」
「青野なら大丈夫」
「卒業しないでください」
「それは、ごめんね」
青野につられて私まで喉の奥がツンとしてくる。
元々、私は涙もろいのだ。
今日は笑顔でさよならをしようと思っていたのに。
これでは決意が揺らいでしまう。