四番
車の中からは獣の咆哮のような物凄じい叫び声が聞こえたと思ったら、車の揺れがピタッと止んだ。


「なんだ今の?大型犬でも乗せてるのか?」


恭平が警戒するよう言ったが車の周りにいる人達は離れるでもなく、さっきのように助けに入るでもなく、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。

その様がとても奇妙に見える。


私たちはその横を少し距離をとりながら通過する。

そのとき車の周りにいる人達の話し声が聞こえてきた。


「あれ……死んだのか?助けようとした俺たちを見ていきなり暴れだして、すぐに動かなくなった」

「シートベルトがあったから平気だったけど、叫んで飛びかかりそうな勢いだったぞ……」

「目や鼻……口からも血を流してた…… 」


事故現場を通り過ぎてから里依紗が口を開いた。


「大型犬じゃなかったんだな。あれ人の声だったのかよ」

「あんな声……聞いたことない」


耳にまだ残っている獣じみた叫び声。


あんな声が人から出るものだとまだ信じられない。



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