日常を返せ!
 男の声に視線を向けると、スーツを着た中年男性と若い男性がこちらに近付いてきた。

「わたしは刑事の犬飼(いぬかい)だ」

「同じく刑事の飛口(ひぐち)です」

 中年男性は犬飼、若い男は飛口と名乗り、二人は警察手帳を見せた。

 犬飼刑事は険しい顔をしてこちらの様子を窺っているのに対して、飛口刑事は人当りの良さそうな表情を浮かべている。

 まるで正反対な態度の二人をジッと見ていると、犬飼の方から声を掛けてきた。

「新田明良さんが目を覚ましたようなので、話を聞きたい」

 犬飼刑事の高慢な態度に苛つくが、それは母も同じようだった。

「娘はたった今、目を覚ましたばかりなんですよ? 事情聴取なら日を改めてくれませんか?」

「そうしたいのだが、なるべく記憶が新しいうちに話を聞きたい。時間はそんなに取らせないつもりだ」

「ちょっと、犬飼さん。そんな強引な聞き方をしたら、また上から怒られますよ」

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