日常を返せ!
 しかし、母がわたしの方に振り向いた時には、心底心配な顔でわたしを抱きしめた。

「大丈夫。明良が何も悪いことをしていないことを、母さんが一番わかっているから」

「母さん……」

 抱きしめられたことに恥ずかしさを感じるが、同時に安心を覚える。

 警察はわたしのことを犯人だと考えているけど、わたしはやっていない。

 それにもう少し早く田山のアパートに着いていたら、犯人と鉢合わせをして殺される可能性だってあった。

 そう考えると体中の血の気が引いて、まだ抱きしめている母に縋り付くのだった。
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