日常を返せ!
 ブチリ、と一段と大きな音を立てたと思うと、わたしはその場で尻餅をついた。

 てっきり男のところに行くと思っていたので、意味が分からず男の方を見る。

 すると、男の手に一束の髪の毛が掴んだままになっていた。

 それが自分の髪の毛だと知ると、慌てて横髪に触れる。

 そこには髪の感触がなく、不自然な肌触りとなっていた。

「え、嘘。わたしの髪が……」

「明良!」

 わたしの側に近寄り肩を掴んだあかねは、真っ青な顔をしている。

 男の方も抜けたわたしの髪を驚いたようで、絡まった髪の毛を地面に落とす。

「これは立派な暴力行為ですよ! いまから警察を呼びますから‼︎」

 あかねがそう言ってスマホをかざすと、男があかねのスマホを奪おうとする。

 それを遮るようにフラッシュとシャッター音が響く。

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