日常を返せ!
 これ以上この場に居たくないのか、中川が再び歩き出したので、石井は慌ててしがみつく。

 いつもならそんな石井の頭を撫でるのだが、苛立っているのか腕を振り払って石井を引き剥がした。

 乱暴に振り払われてバランスを崩した石井は近くの材木に当たり、尻餅をついた。

「痛っ。……ねぇ、わたしのことを信じてよぉ」

 涙を流して訴える石井を無視して、中川はそのまま歩を進める。

 石井と植本の関係は分からないけど、少なくとも石井が植本に好意を持っているようには見えない。

 それにしても確証もないのに恋人を突き飛ばして泣かせるなんて酷い奴だ、と思いながら、わたしは座り込んでいる石井を起こそうと近寄った。

 しかし、わたしが石井に触れる寸前、目の前に何かが崩れ落ちてきた。

 最初は何が起きたのか分からなかったが、すぐに横に置いていた材木が石井に落ちたのだと理解した。

 じゃあ、横にいた石井はどうなったの?

 崩れている材木の下にゆっくり視線を下す。

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