日常を返せ!
 二人が無事だったことに安堵しつつ、わたしは羽間と一緒に走り出した。

「待て!」

 中川の怒号が背後から聞こえているが、振り向いている余裕なんてない。

「羽間、植本とはどこで落ち合うの⁉︎」

「駅前で会うことになりました! それまで捕まらないようにしましょう」

「駅前って、ここから二十分もあるのよ⁉︎ 絶対捕まるって!」

「大丈夫です。新田さんが捕まった場合、わたしが助けますから! とにかく合流することを考えましょう」

「ああ、もう! 分かった!」

 これ以上どうすることも出来ないジレンマにわたしは苛立ちつつ、駅へ向かう。

 運動は平均的に出来る方だからなんとか走れているが、背後で追っている中川を離し切ることは出来ない。

 後ろから低い唸り声と大きな足音が聞こえ、目線で人を殺せそうな憎悪のこもった目付きで走っているのが予想出来る。

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