日常を返せ!
 なるべく距離を縮めないように後ずさる。

「誰かなんてどうでもいいな。全員殺せばルリカの仇は取れる」

 中川は血塗れのナイフを羽間に向けて、今にも襲い掛かろうとしている。

 何かわたしに出来ることはないか、と片手でポケットの中をまさぐると、指に硬い物が当たる。

 形と大きさでスマホと防犯ブザーだと気づいたわたしは、防犯ブザーに手を伸ばしボタンを強く押した。

 それと同時にわたしのポケットからけたたましい音が鳴り、驚くわたしと同じように中川もその場に立ち止まっている。

 音源であるわたしに視線を向けようとしていたので、わたしはポケットからスマホを取り出した。

「羽間‼︎」

 今度はわたしが羽間の腕を掴んで引っ張ると、持っていたスマホを中川の目元に向けて投げつけた。

 こちらに視線を向けていたので、スマホは中川のこめかみに命中した。

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