日常を返せ!
 説明している時間がない。

 ゆっくりした足取りでわたしたちを追い掛ける植本に捕まらないように、ホームへ走り出した。

 改札口も飛び越えて目的の電車に向かう。

 わたしが電車に乗り込むことを知った植本が、余裕のある表情を消して走り出して後を追う。

 到着して開いた電車にわたしと羽間が乗り込んだ。

 扉が閉まる直前に植本が扉を掴んで無理矢理乗り込んできた。

 わたしたちが乗り込んでいたことにより、血塗れで凶器を持った植本を目撃した電車内にいた乗客は、隣の車両へと逃げ込む。

 車両にはわたしたちしかいない状況となった。

「こんなところに逃げ込むなんて、貴女らしいですね」

「思いっきり馬鹿にしてるね」

「ええ」

「そんな馬鹿を甘く見ていると、足元すくわれるよ」

 にこやかに頷く植本に腹を立てながらも、わたしは挑発する。

 しかし、わたしの態度が強がりだと思ったのか、植本はハッと鼻で笑い飛ばした。

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