日常を返せ!
 平穏な日常を保てるのならと、必死に我慢しました。

 本当は誰かに相談して助けて欲しかったのですが、他人に話せば万引き事件の説明をしないといけません。

 わたしがやっていないと言っても膨大な虚構のせいでわたしの言葉は薄っぺらく聞こえるでしょう。

 唯一の味方の母親に縋りたかったのですが、わたしの学費と生活の為にほぼ休みのないブラック会社に働き続けていました。

 帰ってくるのも深夜遅く、たまに顔を合わせると無理して笑みを浮かべていました。

 そんな母親にこれ以上心配を掛けたくなかったわたしは、いつ終わるか分からない状況に耐えるしかありませんでした。

 そんなある日、母親が過労で倒れてしまいました。

 数日病院で入院することになり、一人きりになったアパートでわたしはある決心をしました。

 家を漁り引越しに使ったロープを見つけると、玄関のノブに巻き付けて1つの輪を作りました。

 何度も調べていた自殺方法でしたので、迷いなく用意できました。

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