日常を返せ!
 玉木が仮面の男を指差して怒鳴るが、植本は玉木を宥めて冷静に提案する。

「え、死体に触るの⁉︎ わたしは絶対に嫌だ!」

「俺も触りたくねぇ……」

「わたしも無理です……」

 植本の提案にわたし含めてほとんどの人が首を横に振る。

 それを見て植本は大きなため息をついた。

「仕方ありません。ここは言い出した僕が調べます」

 植本は死体の側にかがみ込んで死体に触ろうとする。

「待って!」

 植本が死体に触る寸前に田山が呼び止め、いつの間にか取りに行ったらしいベッドのシーツを植本に差し出した。

「直接触るのは感染症にかかるかもしれないから、これを使って」

「そこまで頭が回りませんでした。ありがとうございます」

 田山に笑顔を見せて植本はシーツを受け取った。

 田山はその笑顔にどぎまぎとしながら顔を赤くさせていた。

 いつもだったら茶化していたけど、状況が状況だから、見ないふりをすることにした。

 他の人もそれどころではないから、わたしと同じ態度を取っていた。

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