日常を返せ!
 植本はその場でシーツを切り裂いて両手を覆うと、死体に合掌をしてからズボンのポケットに手を入れる。

 両ポケットを裏返しにして中に何もないことを全員に見せると、今度は上着のポケットを探り出した。

「あ!」

 植本が小さな声を上げてポケットから持ち出すと、一枚のカードキーと一台のスマホが出てきた。

 それを慎重に拾い、死体とは少し離れた場所に置く。

 それから内ポケットなども探っていたが、何も見つからなかった。

「出たのはこれだけか」

「しかもスマホ壊れてんじゃん。使えなーい」

 石井がスマホを指差して残念そうに呟く。

 スマホの画面にはヒビが入っており、中の液体が漏れていて使い物にならない。

「じゃあ、あとはこのカードキーが使えるかどうかね」

「なぁ、気づかないのか?」

「何を?」

 玉木の問いに中川が首を傾げる。

< 30 / 296 >

この作品をシェア

pagetop