日常を返せ!
 石井の隣にいた中川が申し訳なさそうに小声で説明し始めた。

「……ルリカは車を探している途中、貧血で倒れたんだ。攫われてから飲まず食わずだったし、元々こいつ病弱なんだ」

「中川さんは、石井さんを担いでここまで引き返したんですよ」

「なんだ、そうだったのね。でも、早めに病院に行った方がいいわね」

 そんなやり取りをわたしたちがしていると、話を聞いていた運転手は、サッと顔を青ざめる。

「これは大変だ。連絡は俺がするから、お前たちはここで待ってろ」

 そう言うと男性は慌ててトラックに戻ると持っていたスマホで連絡してくれた。

 数分後、スマホと数本のペットボトルを持って運転手が戻って来た。

「今から三十分後に救急車とパトカーが来るそうだ。もう大丈夫だから、安心しろ。ほら、これでも飲んでくれ」

 男性がペットボトルを差し出したことで、恐怖と緊張で忘れていた空腹と渇きを思い出した。

 男性からすぐにペットボトルを受け取り、久しぶりの飲み物をすぐに開けて口にする。

 それはいつも飲んでいた飲料だったが、今まで飲んだ中で一番美味しく感じた。
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