日常を返せ!
「いいえ、何でですか?」

「教師を騙すほどの泣き真似ができるって、すごいなって思っただけ」

「わたしの場合、教師じゃなくてほかの人たちを騙すために覚えた技ですので」

 羽間の言葉に意味が分からず尋ねようとしたが、羽間の教室に着いてしまって、羽間はさっさとカバンを取りに行ってしまった。

 入口から羽間の様子を見ていると、わたしと話している時以上におどおどとした態度でクラスメイトたちと接していた。

 クラスメイトたちはフレンドリーに笑っているのに対して、羽間はぎこちない作り笑顔をしながらカバンを手に取り、足早に立ち去った。

「お、お待たせしました。次は新田さんのクラスへ行きましょう」

 羽間はそう言って歩き出すので、わたしはこれ以上詮索せずに大人しく自分のクラスへ向かった。

 わたしが教室に戻ると、あかねと桃香が昼食を終えて机を直しているところだった。

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