婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた
 開かない。となると、ますます中身を知りたくなるのが人の心というもの。

 そしてとうとう、兄の知り合いであるセルギウスを頼ったのだった。
 彼は城に務める魔術師で、解錠のエキスパートとして巷では有名人だ。どんな鍵も、魔術でチャチャッと開けてしまう色んな意味で恐ろしい人なのである。
 魔術師セルギウスなら、この小箱も開けることができるだろう。そう目論んでいたのだが。

「封印となると……セルギウス様でも開けることはできませんか?」
「開けることは出来ますが、おすすめは出来ませんね」
「えっ。どうしてですか」
「封印が施されているということは、この箱には封印したいくらいの何かが入っているということです。その封印を解いて、エレオノーラは責任が持てますか」
「た、たしかに……」
 
 エレオノーラは落胆した。セルギウスの言う通りだ。すっかり、封印を解いた後のことが頭から抜け落ちていた。
 なにが封印されているのか分からない。それがもし恐ろしいものであったとしたら、エレオノーラなどでは収拾がつかないだろう。

「少なくとも、この箱の持ち主に確認してからの方が良いでしょう」
「持ち主?」
「ほら、ここに」

 セルギウスが指差す先を、エレオノーラは覗き込んだ。
 明るい場所でよく見てみれば、金具には小さな紋章が刻まれてあった。対になるよう描かれたドラゴンと、北の空に輝く三ツ星。

「これ……ドラコニア王家の紋章だわ」 
「もしかすると、この木箱は御婚約者――ルドヴィック殿下のものでは?」
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