婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた
 ルドヴィック・ドラコニア。ドラコニア王国皇太子である彼は、エレオノーラの婚約者だった。

 フローレスカ侯爵家とドラコニア王家との繋がりは、たったそれだけ。ならば王家の紋章が刻まれたこの小箱は、彼に縁のあるものに違いないだろう。 
 しかし、もう婚約解消されてもおかしくないと囁かれてはいるけれど。

「……殿下のものが、どうしてうちにあるのかしら」
「昔、エレオノーラに贈られたものではないのですか?」
「いえ、まったく覚えもございません」

 彼からなにかひとつでも貰ったものがあったなら、エレオノーラが忘れるはずがない。
 
 それほど、ルドヴィックはエレオノーラに関心が無かった。
 婚約者であるにも関わらず、誕生日も記念日も、なにもかも。ルドヴィックから会いに来ることなどここ数年一度も無く、プレゼントが贈られることもない。パートナーとして社交の場へ顔を出しても、フイと顔を背けられる。
 
 望まれてはいない。彼とは政略結婚、ただそれだけ。
 ルドヴィックのあからさまな態度から、そんなことは分かっていた。しかし分かっていたとしても、『愛されていない』『婚約解消目前だろう』と陰口をたたかれるたびに、エレオノーラの胸は痛んだ。
 けれど仕方がなかった。婚約解消が成されるまでは、エレオノーラは彼の婚約者でいるしかないのだから。
 
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