婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた
『エレオノーラ、好きだ。一生、大好きだ』

 幼い頃、小さな王子様は、太陽のような笑顔でエレオノーラを抱きしめた。来る日も来る日も小さな花束をその手に持って、エレオノーラに愛を伝えた。
 エレオノーラだって、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるルドヴィックが大好きだった。

 しかしそれも遥か遠い昔の話だ。いつからだろう、このように冷えきった関係になってしまったのは。

「エレオノーラ、どうか泣かないで」 
「す、すみませんセルギウス様……涙が……止まらなくて」
「まったく、ルドヴィック殿下にも困ったものですね……」
 
 涙を流し続けるエレオノーラを見かねて、セルギウスの指が頬を拭った――その時。


 
「何をしている」
 
 背後から冷たく堅い声がした。
 その瞬間、エレオノーラの寂しい涙も、セルギウスの優しい指も、ピタリと止まる。

「何をしているのかと聞いている」

 エレオノーラの額からは、冷たい汗が流れ落ちた。
 見上げると、セルギウスも同じように青い顔をして固まっている。二人がこのように動揺するのも無理はない。だってこの声は――

「ルドヴィック殿下……なぜここに」
「ここは城だ。私がいてもおかしくない」

 確かにそうではあるけども。

 魔術師セルギウスの研究室は、王城の片隅に位置していた。ここが王城の一室である以上、皇太子であるルドヴィックがいたとしてもおかしくは無い。
 けれど、今までセルギウスにもエレオノーラにも、見向きもしなかったではないか。そんな彼が、一体なんの用があるというのだ。
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