婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた
「このような密室に、魔術師風情がエレオノーラを連れ込んで……挙げ句の果てに泣かすとは貴様」
「お、お待ちください殿下! こちらへは私が勝手にお邪魔しただけで、セルギウス様は何も悪くありません」
「君が……?」

 密室に、年頃の男女二人きり。この状況、勘違いされても仕方がない。
 しかし、神に誓ってやましい事は一切無く、セルギウスが咎められて良いはずがない。開かずの小箱のことで、一方的に相談を持ち掛けたのはエレオノーラなのだから。

「セルギウス様には折り入って個人的なご相談があり参りました。彼には相談に乗って頂いただけです」
「……なぜ君はこの男を選んで相談をした? その個人的な相談とはなんだ? 婚約者である私を差し置いて?」
「それは……あの」
「私には言えないことなのか?」
「そういう訳では……」

 いつになく詰め寄られて、調子が狂う。
 実際、ルドヴィックとこんなにも言葉を交わしたのはとても久し振りだった。彼とは年に数回ほど顔を合わせるだけで、その時だって会話なんてほぼ無いに等しい。隣にいても彼は全くこちらを見なくて……エレオノーラなんて、まるで存在しないかのように。
 
 けれど今日はどうだろう。
 ルドヴィックの声色は冷たく低いが、その瞳は真っ直ぐにエレオノーラを見つめている。
 むしろ、エレオノーラ以外は見えていないのではないかと思われるほど視線をそらさないものだから、どうしたら良いものか戸惑ってしまって――思わず隣のセルギウスに助けを求めた。
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