婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた
「セ、セルギウス様、どうしましょう……」
「そうですね……状況的にはまずいですが、ちょうど良い機会です。直接、殿下に小箱のことを伺ってみてはいかがですか」
「ええ……!? 今、ここで?」
「だって、事情をお伝えしなければ誤解されたままでしょう? 嫌ですよ私。ルドヴィック殿下に間男と勘違いされて処罰……だなんて」

 さあエレオノーラ。と、セルギウスは無情にも小箱を手渡した。託された小箱は気のせいか、何となく生ぬるい。

「あら……この箱、温かくなってる?」
「そうですか? ……本当ですね、先程までは気付きませんでしたが」
「こ、これは大丈夫なのかしら?! 封印は……」
「私にだって分かりませんよ!」

 どのようなものが封印されているかも分からない現状で、封印がとけてしまったら大変だ。なぜか急に訪れた小箱の異変に、エレオノーラとセルギウスは二人で慌てふためいた。
 
 しかし二人が一緒に慌てれば慌てるほど、小箱はどんどん熱を帯びる。 
 まるでルドヴィックの怒りに比例するかのように。
  
「お前達、何をコソコソと……!」
「殿下、違うんです聞いてください! この小箱いきなり熱くなって」
「そんな親しげに身を寄せ合って、一体いつから――」

  
 カチリ。

 
「ん?」
  
 怒気を孕んだルドヴィックが、二人に向かって一歩踏み出したその瞬間。 
 エレオノーラが持つ小箱から、金具が動く音がした。

 と同時に、小箱から熱は消えさり、蓋が勝手に開いてゆく。あんなに何をしても開かなかった蓋が……

「あ、開いた……!?」

 エレオノーラとセルギウスは、恐る恐る、箱の中を覗き込んだ。 
 するとそこには――小さな指輪がころりと転がっていた。
 
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