クズ吸血鬼を拾ったら



「ーーっ、はぁ、はぁ……いっ、息、できないよ」

「はは、かわいーね。鼻使えよ」


……言われてみればたしかにーーそう、なのか?

そんなこと言われたって、初めてなんだから仕方ない。

……初めて。そう、初めてだったのに。


「……さ、最低だ……」


好きでもないどころか、よく知りもしない、こんな行きずりの相手と、ファーストキスをしてしまった。


「え、俺?」


最低なのは陸さんというか、こんな事態を引き起こした自分というか、こんな環境とにかくすべてというか。


「ーー全部! ……って、あぁー!」

「それ、やめてくんない? うるせーから。今度はなに?」

「だっ、大学、行かなきゃ!」


ーーそうだ、今日の6限は絶対落とせないんだった。

今から急げば、ギリギリ間に合うはず。

私は飛び起きて、本当に最低限の身仕度をした。


「ーーで、出てってね!? 私、もう行くから!」


返事はせずに微笑む陸さんが、おとなしく出ていくとは到底思えない。

けどもう構ってる時間はない。

玄関まで行って、靴がないことを思い出した。


「ねえ! 靴、どこ!?」

「いや、俺じゃないし。咲ちゃんが昨日自分で投げてたよ。外に」


ドアを開けると、本当に外に靴が散乱していた。

昨日の自分、なにやってんの!?

酔っぱらいって本当にたちが悪い。

私は慌てて靴を履いて、アパートを後にした。

背後に、絶対に出ていく気がない陸さんの、いってらっしゃいを聞きながら。


< 12 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop