サンライズ

第2話

教室から出ると、まだ4月だというのに強い日差しが降り注いでいて、私たちを照りつける。さすがに日傘は早いかなと思うけど、キャンパス内には日傘をさしている人もちらほらといた。まったく日差しにはいつも迷惑させられる。おまけにこの時期は朝夕とお昼の気温差もすごく大きい。


数分歩いて私たちはカフェへと向かった。全国チェーンではなく、大学が運営しているカフェのようで学生には優しい値段設定だった。


3人掛けの丸いテーブルに通され、そこに座る。かなり広い店舗でも、ほぼ満席だった。


さっそく、那緒ちゃんがメニュー表を見ながら言う。


「イチゴパフェが300円⁉毎日食べちゃいそう・・・・・・」

「毎日食べたらさすがにカロリーが…」と太陽君が的確な指摘。

「うるさい!そういうのは気にしたら負け」


いやさすがに毎日はやばいのでは、と私も思いつつ何も考えなくていいのなら毎日食べたいと思った。それほどお財布にも優しいし、何よりメニューに載っている写真はどれもおいしそうだ。中には『5人前特大パフェ』というものまであった。


「新葉は何にする?」

「私もイチゴパフェと、あとアイスティーがいいな」

「シロップいっぱい入れてでしょ。私もその組み合わせ大好き!やっぱり気が合うね」

「そうそう。言ったでしょ。類は友を呼ぶって」


うん、今度は使い方あっているはずだ。那緒ちゃんは「あれ、さっきそんなのだっけ」と、つぶやいて笑う。


「太陽君は何にするの?」


一人忘れられている太陽君はもう一枚あったメニュー表をずっと見ていた。


「そうだなぁ。リンゴパフェは決まっているんですけど、ブレンドコーヒーかカフェオレか迷っていて。うん、でもブレンドコーヒーにしよう」


なんだか1人で完結したようで太陽君は店員を呼び、「イチゴパフェとアイスティーでしたっけ」と私達の分まで注文してくれた。


女子2人の「ありがと」を受けていえいえと太陽君は返す。


「ずっと思ってたんだけどさ、太陽君ってどうして敬語なの?」


一つ落ち着いたところで、気になっていたことを聞いてみる。


「そうだよ。私たち同い年だし、ため口でいいよ」


どうやら那緒ちゃんも気になっていたようだ。


「そうですね。ずっと、昔から敬語というか、こういう話し方をしていたもので、なんだかため口にすると違和感があるんですよ。それに、多分僕お二人と年齢違うと思いますよ。一浪していますし」

「浪人してたんだ。やっぱり大変だった?」

「ねえ、那緒ちゃん。浪人ってなに?」


そんなワードを聞いたことがない私はこっそりと那緒ちゃんに聞いた。


「あんた浪人知らないの?」

「うん。私、推薦で早めに大学決まったから普通の入試のことよくわかってなくて」

「あーそういうこと。浪人って言うのは、高校を卒業してからもう少し勉強して大学を目指すこと。

1年浪人する人もいればもっと勉強する人もいる。だから太陽、あ、太陽君は私たちより年上ってことだよ」

「え、そうなの⁉」


浪人っていうものがあることも知らなかったけど、太陽君が年上だったなんて。いや、やけに落ち着いた様子だったのはそのせいか。


「別に隠していたわけではないのですが。というか、那緒さん。別に君付けじゃなくてもいいですよ。新葉さんも」

「そう?じゃ、太陽で。君付けだと赤の他人みたいだし」

「私は最初から君付けだったし、太陽君の方が言いやすいかな」

「そうですか?まあご自由にどうぞ。あ、来たみたいです」


一番奥に座っている太陽君の表情が少し変わる。後ろを振り向くと、店員さんが3つのパフェとドリンクを運んでくれていた。写真でも十分おいしそうだったのに、実物はそれ以上だ。急にお腹が空いてきた。那緒ちゃんと私はすぐにスマホを出して写真を撮る。太陽君も写真撮るのかなと思い、ちらっと見ると彼はそんなそぶりも見せず、すでに食べ始めていた。そして、おいしそうにコーヒーをすすっている。


「あれ、太陽君は写真撮らないの?」

「おいしそうだったのでつい。確かにせっかくだから撮っておいたらよかったですね」

「あ、じゃあこうしよ?新葉、ちょっと太陽君の方に寄って」


那緒ちゃんに押されて太陽君の方へと席が動く。「はいチーズ」という掛け声に合わせて那緒ちゃんがスマホで写真を撮った。


「ちょっと、那緒ちゃんやめてって」

「いいからいいから、あとで送っとくね」


那緒ちゃんはそう言ってスマホをしまい、パフェを食べ始めた。太陽君は何も気にせずパフェを食べては
コーヒーをすすっている。


はぁこの二人は、と思いつつ私もパフェをほおばる。イチゴの甘酸っぱさと生クリームの甘さが絡み合って本当においしい。本当にこれが300円?と思うぐらいに。


「確かにこれなら毎日でもいいかも」

「でしょ?」

「でもやっぱりカロリーが…」と太陽君。

「空気読め!」


はもって、女子2人は互いの顔を見合わせて盛大に笑う。


あぁ大学生だなぁと思いながら太陽君の方をちらっと見ると、彼は微笑んでいるだけだった。中学高校と女子校だった私は、男子ってこんな感じなのかなとも思いつつ、やっぱり他の人とは少し違う印象を太陽君に抱いた。出会ってまだ数時間だけど、不思議な存在だ。


「そうだ。みんなで連絡先交換しない?同じクラスだし、連絡できた方がいろいろと便利でしょ?」


そう言って私はスマホを前に出した。


「そういえばまだ交換してなかったっけ。まあ、いろいろと便利だし、ね?」


那緒ちゃんは笑いながら私を見てくる。だからそんなんじゃないってば、と言うだけ言っておく。リュックからスマホを取り出し、メッセージアプリを起動した。


「僕、あまり携帯を見ないので返信が遅れるかもしれませんが、それでもいいですか?」

「大丈夫。私だって返信遅いし、何なら見てても返さないから」


うん?と思いつつ誰もつっこまないのでスルーだ。


みんなでスマホを見せあって、連絡先を交換する。2人にそれぞれ「よろしく」のスタンプを送っておくと、すぐに那緒ちゃんから一枚の写真が送られてきた。太陽君と一緒に撮られた写真だ。幸いに私の顔も太陽君の顔も崩れていなくて、奇跡と偶然が重なった1枚のようにも思える。少し不服だけどありがとうと言っておいた。


それからしばらくカフェでしゃべり、区切りがいいところで外に出た。あれほどまでに私たちを照らしていた日差しは建物の裏に隠れていて、代わりに少しだけ浮かんでいる雲を鮮やかなオレンジ色に染め上げている。


「今から2人はどうするの?帰る?」


前を歩いていた那緒ちゃんがこちらを振り向いて尋ねる。


「私は図書館でも行こうかな。予習が少しだけ残ってるし」

「予習って、あんたまじめか。太陽はどうするの?」

「僕は家に帰ります。特にしばらくは何も用事がないので」

「おっけ。じゃあ、太陽は何もないわけね」


と、那緒ちゃんは意味ありげに私を見てくる。女子校ではこんなことなかったのに。

「さっき、2人とも風景が好きって言ってたじゃん?私、近くにある絶景の穴場スポット知ってるんだけど、太陽一緒に行かない?新葉は用事あるらしいし」

「そんな場所あるんですか。ぜひ連れて行ってください」

「オッケー。さ、新葉はどうする?もうすぐ日が暮れるから早くきめないと…」


即決。


「私も行く!さ、早くいこ」

「でも新葉さんは予習があるのでは…」

「まじめか」


さっき那緒ちゃんに言われたことをそのまま太陽君に投げる。図書館に背を向けて私たちは歩き始めた。
< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop